August 16, 2006

61. A Kiss on the Offshore Water

というわけで、研究室の同僚やOBたちと西伊豆の戸田へ小旅行に行って、そこで「沖キス」という魚を食べました。なんだ、くだらないですね。

焼魚の写真

偶然入った店で「深海魚の焼魚定食」というのを頼んだら、これが出てきた(同行者が撮ってくれた写真です)。この他に刺身、漬物、いかの塩辛、ごはん、お吸い物がついたセット。きっちり特定したわけではありませんが、たぶんこの焼魚は「沖キス」だと思う。店に貼ってあった深海魚の写真の中で似ているものは他になかったし、帰ってきてから色々調べた結果からしても、どうやら間違いなさそう。大きさは20 cm弱といったところ。

沖キスまたは沖ギス(漢字で書くと沖鱚……魚へんに喜)というのは通称で、正式な和名はニギス(似鱚)というらしい。他にも色々な名前があって、地元ではメギスとも呼ばれていたようだし、オキガマス、ケツネエソ、オキイワシ、オキウルメ、ハダカウルメなどと呼ぶ地方もあるみたいですね。

キス(鱚)に関連した名前がつけられる場合がけっこうありますが、分類上はむしろサケ(鮭)に近い仲間で、ニギス目ニギス科ニギス属という独立したカテゴリに入る魚です(学名はGlossanodon semifasciatus)。日本近海にいる同科の魚はニギス、カゴシマニギス、イチモンジイワシの3種。だいたい水深100-200 mぐらいの場所にいるそうです。このぐらいの深さでも「深海魚」なのか?一般的には水深200 m以上を深海というからちょっと怪しいけど、まあ大衆食堂だし。それに、「日本一深い湾」ということで有名な駿河湾産でもあるし。

味のほうは、漁船が並ぶ産地の海辺で食べたという雰囲気を差し引いても、なかなかおいしかったです。軽く干したものをシンプルな塩焼きにしたのかな。頭をはずして、あとは丸ごと全部いただきました。大きさの割に肉厚で、けっこうな食べごたえがあった(写真に写っている4匹のうち、一番下の1匹は子持ちでした)。この感じだったら頭から食べてもよかったかもしれない。4つ並んだ頭がもったいない。

……と思ったんだけど、僕の皿に残された沖キスの頭部から、少しだけ顔をのぞかせていた脳を同行者の一人が発見。「よし、じゃあちょっと解剖してみよう」ということになりました(職業病だな、これは)。

頭部の皮や骨を切り開いて、まず脳の全貌を確認。

「意外とマウスに似てますね」

さらに箸でつっつくと、小脳と脳幹の部分がポロリと取れてきた。残った大脳(辺縁系)側の構造を、つまんだり後ろからめくりあげたり。

「嗅球はついてますか?」

「うん、これだと思うよ」

「そう?それは視交差じゃありませんか?」

「いや、視交差は、ほら、こっちのウラ側にあるやつだと思うよ。これは嗅球でしょ」

「あ、ほんとだ」

なにやってんだか。

でもね、いいものですよ、こういう楽しみ方ができるっていうのも。今回一緒に行った人たちは全員それなりにサイエンスの素養があったから、海というフィールドはそういう点でも刺激的(もちろん、ほとんどの時間はただ馬鹿みたいに遊んでいただけですが)。生きものを適当に採集しても、誰かが必ず面白い観察や考察をするし。たまたま近くの温泉に行ったら、「成分表を写真に撮って記録しといてよ」となる。海辺のちっちゃい博物館でも、みんな標本や図鑑にがぶりついていました。

すごく専門的なことは必要ないから、ちょっと勉強すれば誰でもこういう楽しみを味わえると思います。僕たちだって、実験用の機器や難しい文献なんかは当然持参していなくて、ほとんど海パンのみで過ごしていたし。レベルとしては、高校の生物ぐらいのものと、あとちょっと興味のある分野の本でも読んでいれば十分楽しいはず。もちろん、何も考えなくたって海は楽しいけど、生物学に限らず何らかの「サイエンティフィックな遊び心」を頭に詰めて行くと、バケーションの充実度はさらに上がると思いますよ。

こういうのは「子供の教育目的で」っていう感じの試みをたまに見かけるけど、むしろ「大人の娯楽」なんじゃないかな。海へ出かけて、パートナーとロマンチックなひとときを過ごすのも悪くない(そりゃ僕だってやりたい)。でも、知的好奇心だってなかなか捨てたもんじゃないですぜ。

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