June 29, 2006

56. ストックホルムにて<3> 若さとindividuality

スウェーデンでの話。まだ続きます。

> 第1回: ストックホルムにて<1> 序章
> 第2回: ストックホルムにて<2> ある脳科学史家の話

今日は、学会期間中を通じて僕と一番仲良くしてくれた、リックという男性の話です。カリフォルニアからやって来た伊達男。大学院修了直後には、今回の学会の会場にもなったカロリンスカ研究所で働いていたこともあり、ストックホルムの細かい地理に詳しくてずいぶん助かりました。また、参加者の中ではかなり若いほうで(それでもたぶん僕より10才ぐらいは上だと思うけど)、それが仲良くしてくれた理由の1つでもあるのかな。

うまく伝えることができるかどうかわからないけれど、彼の魅力の一端を下に綴ってみようと思います。

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学会会場でリック・トンプソンを見分けるのは、とても簡単なことだ。なめらかなウェーブを描きながら優に肩まで届く長髪がきっちりと束ねられている姿は、個性的な風貌が珍しくない光景の中ですら、ひときわ異彩を放っている。口の周りには、よく手入れされた髭。すらりと背が高く、どんなときでも常に見栄えのするスーツを着込み、ネクタイを結んでいる。そして、「僕はneuroanatomist(神経解剖学者)だよ」と、意外なほど柔らかい笑顔で胸を張る。パッと見は、まあ、今書いたとおりで、学会会場などよりは晩冬のコダックシアターのほうがよっぽど似合いそうな感じなんだけど。

幸か不幸か、彼が働いている研究機関には、リチャード・トンプソンという同姓同名の(ミドルネームだけが違う)大物研究者がいる。分野も近いから、混乱されることもあるのではないだろうか。また、音楽ファンにとっては、この名前はフェアポート・コンヴェンションの中心メンバーだったギタリストを思い出させるものかもしれない。でも、彼にとって、そんなことは露ほども気にならないだろう。世の中にリチャード・トンプソンはたくさんいるけれど、リックはリック。そして、それは人目につく外見のせいだけではない。

あるとき、僕は彼をよく知る女性研究者と二人だけで朝食をとっていた。はじめはなんということもない雑談を交わしていたのだけれど、彼女がふと、「ところであなた、リックのことは気に入った?」と僕に尋ねた。

「もちろん気に入りましたよ。ナイスガイですね」

「そうね。それに、リックはとてもindividual(きっぱりとした「個」を持っている)でしょう。もちろん、あのスーツに映える長い髪を見ただけでもそう感じる人は多いと思うけれど。でも、彼はハートもindividualなのよね。研究における姿勢も、自分が身を置く研究環境の選び方も。リックから教えられるのは、『自分の興味に従いなさい』ということ。そして、感心するのは、彼がそんな考え方を保ちながらも、周囲の人間にとって十分すぎるほどナイスであること。若いあなたに私からアドバイスできることは特にないけれど、ただこのリックの姿勢をよく見て欲しいわ」

その次の日、よく晴れたノーベル会館の庭で、美人のウェイトレスが淹れてくれたコーヒーを一緒に飲みながら、リックは僕にこんなことを言ってくれた。

You’re young and you have a good future. Follow your own way.

まあね、でも彼だって若いんだから。これは自分自身に向けた言葉でもあったんだろうと思う。今回の学会の参加者は、大部分が長いキャリアを積んだ人たちで、よく目を凝らさなければまるで「研究者の老人会」のような雰囲気ですらあった。そんな中で彼の「若さ」への感覚が研ぎ澄まされることになったのかもしれない。

では、僕たちにとって「若さ」と「individuality」の関係とはなんだろう。外部の目から見て、サイエンスにどれほど浮世離れしたイメージがあるのかわからないが、世知辛さが存在するのはどの世界でも同じ。駆け引きや損得勘定といった「大人の事情」と無関係でいるのは難しい。僕たち(つまり僕やリック)は、そういう環境下でindividualであることを守らなければいけない。そこで、リックは「攻撃こそ最大の防御である」という言葉を実践し、individualityを隠さず存分に発揮する。

そして、僕はというと……これはまあいいや。

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さて、どうでしょう?リックがどんな人だかわかりましたか?(わかんないよな)僕のボスは「変人どうし、気が合ったんじゃないか?」なんて言っていたけど。うーん、それはどうなんですかね。変人についての話じゃないんだけどなぁ。

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