May 25, 2006

51. 漠然とした女性群のみなさんへ

先週、日本神経科学学会の男女共同参画推進委員会というところから以下のようなメールが届きました。

神経科学学会会員の皆様

神経科学学会に昨年発足した「男女共同参画推進委員会」は,神経科学学会における男女共同参画の現状を把握し,今後取り組むべき方向性を決定するために,このたび「男女共同参画推進」アンケートを実施いたします.

男女共同参画。最近ではよくある話です。メールでは簡単な数値データを挙げた上でアンケートの必要性を訴えていて、加えてなかなか説得力のある文面が続きます。これは次のような感じ。

生物系の学会全体における学生会員の女性比率は現在32%であるのに対して,研究を職業とする一般会員の女性比率がいまだ17%に留まっており,女性教官のしめる割合が5%以下の大学や研究機関も珍しくありません.

女性研究者が研究の現場から離れてゆく理由は何なのでしょうか?研究生活の維持を妨げる社会的・環境的要因があるのでしょうか?本来性別にかかわらず全ての研究者が正当に評価され思う存分に能力を発揮できることは当然の権利であり,多様な個性の参画は研究環境の活性化にも大きな利益をもたらします.

今後の神経科学の発展のために,今私たちが何をすべきで,何をすべきでないのか?ぜひ会員の皆様の率直なご意見を伺いたいと思います.

ウェブ上で行われているアンケートですが、会員番号とパスワードの入力が必要なため、回答できるのは学会会員だけです。しかし、こうした問題が取り沙汰されるのは、何も神経科学の分野に限ったことではないでしょう。もっと言えば、おそらくサイエンスの世界に限ったことでもないはず。

そういうわけで、「こんなところでもアンケート調査が行われていたりするんだなぁ」ということをなるべく多くの人たちに知って欲しいと思い、上記メールを部分的に転載した次第です(もし転載に問題があると判断される関係者の方がいらっしゃったら、ご連絡ください)。

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でも正直に言うとさ……男の立場からこの種の問題にまじめに答えようとすると、ちょっと困っちゃうことがないこともないですよね。そういう状況に対峙しているとき、何とも言えない漠然とした不安感があるというか。

もちろん僕は、「その人が女性だから」という理由だけで、誰かの真っ当な意向を邪魔しようなどと思ったりはしません。そういうレベルの低い話ではない。

実際、女性を低く見ていることを自ら公然と認めている人であれば、そんな不安感に駆られることもないでしょう。そして同時に、ひたすら無反省に(本当に反省が必要かどうかは別として)女性の地位向上のために日々全力を注ぐ人も、また不安に襲われることは少ないと思います。

では、「男性・女性を問わず個々の権利が尊重されなければならないのは理の当然である」と考えながらも、実際の運動なり政策なりに向き合うと逡巡してしまう場合があるというのは、どういうことなのでしょうか。僕が思うに、どうもこれは「女性の目が気になってしまう」ということで少なくとも部分的には説明できる気がします。ある特定の女性の目ではなく、見えない対象としての女性の目が。

順番に考えてみましょう。まず、個々の女性に対する場合であれば比較的シンプルです。こういうときは、男性だろうと女性だろうと特に変わったことがあるわけではない。とりあえずは、その人がどういった考えの持ち主で、どういう行動を取りたいと思っているのかを丁寧に汲み取る努力をすることです。それを前提にした上で、こちらの出方を決めるのが基本になりますよね。

しかし、たとえば今回のアンケートであるとか、あるいは政策上の問題などで、多数の「漠然とした女性群」が対象になってくると簡単ではありません。一口に女性といっても、みんながみんな同じ考えを持っているわけじゃないからですね。「賛同してくれる女性もいるだろうけれど、怒ってしまう女性もかなり出てくるんじゃないか」などと、いろいろ余計なことで思い悩むはめになる。そんなことは相手が「漠然とした男性群」でも一緒じゃないか、と思われるかもしれませんが、どうもそうじゃないんですよね。もちろん男性群に対してだってそう感じることは皆無ではありませんが、やっぱり女性を相手にするときと比べると弱い。

これについては、以前の記事で紹介した作家、アイザック・アシモフが面白いことを書いています。それは、『黒後家蜘蛛の会』という連作ミステリーの中にある記述。この作品は「黒後家蜘蛛の会」と呼ばれるクラブのメンバーが様々な謎解きに挑むというものなのですが、このクラブが女人禁制なんですね。そしてあるとき、女性を排除しているということの是非について議論が生じる。なかなか面白いですよ。たとえば「『わたしは男尊女卑じゃあありませんが、しかし……』という言い方ほど男尊女卑を表すものはないよ」なんていう台詞は秀逸です。

そんな中でも今回の話題に絡めて紹介したいのは、この「黒後家蜘蛛の会」で名探偵役となっている老給仕ヘンリーが語る言葉です。少し長いので抜粋して下記に引用しましょう。

わたくし思いますに、大方の男子は幼少の折、最大の権威としてまず母親を意識いたすものでございます。(中略)わたくしどもは終生その脅威を忘れ得ぬのでございます。(中略)少なからぬ男性が女性に恐怖を抱いておると存じます。実際、男ばかりの席ではたいていの者がほっと解放感を味わうものでございます。とりわけ女性の参加が認められておらぬ場所では、解放感もまたひとしおでございます。

そして、「黒後家蜘蛛の会」は「女性一般からの避難所としての必要性がある」と説く。すると、これに続く別の登場人物の台詞にあるように、「少なくとも今の説明には男尊女卑の思想の現われとするべきものはなにもないね」ということになります。

まあ、こんなところで納得するしかないのかな。

アンケートについては……できる限り誠実に回答させていただきました。

怒らないでね>漠然とした女性群のみなさん

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