- March 24, 2006
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46. GABAチョコに関する誤解と真実
GABAチョコなるものが出回り始めたのは、だいたい1年ぐらい前からでしょうか。「リラックス効果を高めたチョコ」として、今でも店頭に並んでいます。
しかし、このGABAチョコ、「本当に効くの?」という声も多い。たとえば、「食べたって消化されちゃうだけじゃないの?」という人もいます。また、脳研究を齧っている人などからは、「脳にはね、血液脳関門っていうのがあって、化学物質はそこを通らないと脳に到達できないんですよ。で、GABAは血液脳関門を通ることができない物質だから、効くはずがないんです」という意見も。僕も普段は脳の研究をしているので、そういう話をチラホラと聞きます。また、ネット上にもそういった類のテキストが出ています。
確かに、GABAが非常に脳に到達しにくい物質であることは間違いない。でも、仮にそんな見え透いたインチキがあるとしたら、ここまで大手を振って売れるものなのか。
そこで、「経口摂取されたGABAのリラックス効果」ということと関係がありそうな論文を、片っ端から調べてみました(この記事の末尾に、僕が読んだ論文の一部を参考文献としてリストアップしてあります。けっこう日本人の研究者がやっているんですね)。
すると、意外な事実が……。
説明の前に、まずは、実際にGABAチョコを販売しているグリコの説明を引用します。
江崎グリコでは、リラックスに役立つといわれるアミノ酸の一種「GABA(ギャバ)」を多く含んだチョコレート『メンタルバランスチョコレートGABA(ギャバ)』4品を2005年5月10日(火)、関東地方で新発売いたします。
GABA(ギャバ)は、正式名称をγ(ガンマ)-アミノ酪酸(Gamma-AminoButyric Acid)と言い、動植物の体内に広く存在しています。この成分は人間の脳内に存在する神経伝達物質です。また、リラックスに役立つといわれているアミノ酸の一種です。
GABA(ギャバ)はチョコレートにも多く含まれていることが明らかになっています。チョコレートを食べた時に”ほっ”とリラックスできるのも、チョコレートに含まれるGABA(ギャバ)がその要因のひとつであると考えられます。
グリコの『メンタルバランスチョコレートGABA(ギャバ)』は、一般的なチョコレートの25倍以上※(100gあたり280mg)のGABA(ギャバ)を含有しています。
現代はストレス社会とも言われます。ほっとひといきリラックスに役立つチョコレートで、チョコレート市場の活性化を狙います。
http://www.ezaki-glico.com/release/20050315/index.html実は、この中に明らかに間違った記述は指摘できなそうなのです……。
ま、とりあえず、血液脳関門(または脳血液関門。日本語だとややこしいので、僕たちは普段英語の略称でBBBと呼んでます)の話から説明しましょう。
繰り返しますが、GABAはBBBを非常に通過しにくい物質です。ただし、BBBがそれほど強固なバリアかというと別にそんなことはなくて、神経伝達物質と良く似た構造の物質でも、BBBを素通りしちゃうものは結構ある。そういうのは、普通「まやく」とか「かくせーざい」というふうに呼ばれていますね。だから、もしGABAがBBBを通過する物質だったとしたら、「GABAチョコ」なんてものは激ヤバです。食品に混ぜて売るなら、むしろBBBを通過しなくて正解。
さて、脳に入らないのであれば、どうしてGABAが体内に取り込まれると「リラックス」するのか。関連する論文を読んでみると、経口投与であれ血中投与であれ、GABAには血圧を抑える作用があるらしい。軽度の高血圧の予防・治療法の一つとしても期待されている様子です。「血圧の低下=リラックス」とは言い切れないと思うので難しいところですが、少なくとも大嘘ではない。
もっとも、血圧が下がるメカニズムについては、まだ全容は解明されていないようです。ただし、仮説としては(BBBをほとんど通過しない以上当然ですが)「中枢神経系ではなく末梢に作用する」ということが考えられているようです。具体的なターゲットとしては、「腸間膜動脈血管床」と呼ばれる場所や、末梢のノルアドレナリン放出経路など。
「食べたGABAが消化されてしまわないか」という点についても、経口投与で結果が出ているところからして、たとえ食事として摂ってもGABAの血中濃度は多かれ少なかれ上がると見ていいでしょう。ま、化学物質が必ずしも分解されるわけじゃないっていうことは、いわゆる「内服薬」ってやつがそれなりに効くことからもわかりますね。もちろん肝臓での分解はあるはずですが、それでも。
さて、ここでもう一度、上記のグリコの説明を見てみましょう。
「この成分は人間の脳内に存在する神経伝達物質です。また、リラックスに役立つといわれているアミノ酸の一種です」とか、「チョコレートを食べた時に”ほっ”とリラックスできるのも、チョコレートに含まれるGABA(ギャバ)がその要因のひとつであると考えられます」ということは書いてありますが、「リラックスできるのは、食べたGABAが脳内に入るからですよ」とは一言も書いていない。でしょ?
まあ、結論づけるとしたら、とりあえず次のような感じなのかな。
・「GABA食ってリラックス」はあながちウソとは言い切れない。
・「GABA食う⇒脳内に入る⇒リラックス」という推論を立てるのは間違い。
・ 科学的な間違いを注意深く避けつつも、上記のような推論を誘発する企業側の説明には問題ありかも。とかなんとか言いながら、僕はGABAチョコって食ったことないんですけどね。おいしいのかな(←結局そこが重要)。
※ 以上の説明に誤りを発見された方は、ご指摘いただけると嬉しいです。ご意見・ご感想等、メールフォームからどうぞ。
以下、参考文献
- Hayakawa K, Kimura M, Yamori Y (2005) Role of the renal nerves in gamma-aminobutyric acid-induced antihypertensive effect in spontaneously hypertensive rats. Eur. J. Pharmacol. 524, 120-125.
- Hayakawa K, Kimura M, Kasaha K, Matsumoto K, Sansawa H, Yamori Y (2004) Effect of a gamma-aminobutyric acid-enriched dairy product on the blood pressure of spontaneously hypertensive and normotensive Wistar-Kyoto rats. Br. J. Nutr. 92, 411-417.
- Aoki H, Furuya Y, Endo Y, Fujimoto K (2003) Effect of gamma-aminobutyric acid-enriched tempeh-like fermented soybean (GABA-Tempeh) on the blood pressure of spontaneously hypertensive rats. Biosci. Biotechnol. Biochem. 67, 1806-1808.
- Inoue K, Shirai T, Ochiai H, Kasao M, Hayakawa K, Kimura M, Sansawa H (2003) Blood-pressure-lowering effect of a novel fermented milk containing gamma-aminobutyric acid (GABA) in mild hypertensives. Eur. J. Clin. Nutr. 57, 490-495.
- Hayakawa K, Kimura M, Kamata K (2002) Mechanism underlying gamma-aminobutyric acid-induced antihypertensive effect in spontaneously hypertensive rats. Eur. J. Pharmacol. 438, 107-113.
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